二月も下旬となり、日中は大分暖かくなってきたように感じます。春が近いのでしょう。リブロ40号より編集長を務めさせていただいています、中島弘です。作品をめっきりかいていないため自分のペンネームすら忘れかけてました。
大分暖かくなってきた、とかいったわりには外に出ることは少なく、暖かいのは炬燵や羽毛布団のおかげ、という説もありますが、春が近いのは間違いありません。現在PENクラブの何人かの方々は春リブロに向けて作品を仕上げている真っ最中ですから。
今までリブロは衣笠キャンパスの清心館、存心館、以学館の各ラウンジにてスペースをいただき無料配布していたのですが、今回の春リブロはBKCにも進出して、配布する予定です。より多くの方にリブロを読んでいただければ幸いです。
立命PENクラブは、新歓期にはこの春リブロの他にも新入生文学賞やビブリオバトル、といったこともする予定です。これについてはまた誰かが紹介するでしょうから、書籍の紹介に移りたいと思います。
文藝春秋より出された、「オールスイリ」です。掲載されている作家は米沢穂信さんや湊かなえさん、辻村深月さん、有栖川有栖さんといった豪華な顔ぶれ。作家業をやめた森博嗣さんの記事もあります。
私が今回紹介したいものは、乾くるみさんの「嫉妬事件」です。
乾くるみさんといえば、第三回メフィスト賞を受賞し、代表作にはタロットシリーズの一つ「イニシエーション・ラブ」があげられます。こちらの作品も凄くお勧めしたいのですが、核心に触れずにあらすじを説明するのが困難なので、読んでみてください、としか言えません。
さて、「嫉妬事件」です。もちろん誌のタイトル通り「推理モノ」なのですが、「イニシエーション・ラブ」や「リピート」同様に、殺人事件が起こったりする類のものではありません。しかし、確かに事件が起き、それを探偵役を担う主人公が解決に導く、れっきとしたミステリーなんです。
舞台は城林大学ミステリ研究会の部室、その日は部員の書いてきた推理小説の「犯人あて」をする日であり、何人かの部員が想いを寄せる女性部員の彼氏が来るという日でもあった。四桁のダイアル鍵で施錠していた部室を開けた時、主人公たちは部屋にたちこめる異臭に気付きます。部室を見まわし、本棚の一番上の本の上に、異臭を発している物体を見つけます。う○こです。本の上にう○こが置いてあったのです。
「嫉妬事件」はこのう○こを誰が、何時、何のために、本の上に設置したのかを、解決していく話です。
ミステリ研究会発足時のSF研との確執、好きな女性部員が連れてきた男性の存在…… 部員の前日からその時までのアリバイ追求、う○この分析による出所解明…… 被害にあった本の位置、タイトル……
作中ではそれらをとことん追求して事件解決を目指します。
殺人が起こるわけではありません、しかしこれもれっきとした事件なんです。真剣に推理しています。
オチは衝撃的かつ多少納得のいかないものでしたが、しっかりと張られた伏線、そしてその鮮やかな回収などは見事の一言です。僕はこういうミステリーもありだと思いました。
駄文失礼いたしました。
バレンタインデーには、お菓子を作って食べました。桂・万智です。
こういう行事は楽しんだ者が勝ちという認識になりましたので、めいっぱい楽しんでます。たぶん。ガトーショコラはそれなりに美味しかったです。ホワイトデーはクッキーを作りましょう。
さて、文芸部のブログらしく作家紹介と行きます。
円城塔という作家。
不条理文学だとかSFと純文学の融合だとかさまざまなことを言われている作家で、受賞暦もいくつかある実力派の作家さんです。上記の『Self-Reference ENGINE』はゼロ年代ベストSFで四位を獲得(一位は過去の記事に紹介されていました伊藤計劃の『虐殺機関』)しました。その作風は難解の一言に尽きます。おそらくですが、読んだ文章の8割が意味がわからない。むしろ、意味をわからせようとしない。専門用語と彼の創作がカオスの如く混ざり合いながら進行するお話は、彼が言っている通り、「わざと難しく」書かれています。
もともと理系の研究者であり、複雑系(カオスとかそんなの)を専攻していたというのですから、納得なのがすごいです。つまり、難しいこと考えてたから難しいこと書きだしたんだ、と。
そんな円城塔なのですが、彼の恩師(大学の研究室の教授)も著作のある人だったりします。
金子邦彦。円城塔というペンネームは、金田邦彦の書いたこの「カオスの紡ぐ夢の中で」に入っている掌編の一つに出てきます作家”円城塔李久”から来ています。円城塔の作品を気に入ってもらえたら、副読本としてこっちも楽しめるかと思います。
とはいえ、円城塔の作品はその作風から、好き嫌いが極端に分かれます。食わず嫌いは良くありませんが、食べて食傷というのもなにか難儀なこと。まずは軽い気持ちで読むのが良いのではないでしょうか。さあ、あなたの手には「Self-Reference ENGINE」「Boy's Surface」「オブザベースボール」「後藤さんのこと」「烏有此譚」があるはずです。
以下、ちょっとしたベストSF的な話。
円城塔と伊藤計劃は共に『ディファレンス・エンジン(ウィリアム・ギブスン/ブルース・スターリング 共著 黒丸尚 訳)』の愛読者であり、それをオマージュして書いたのが、円城にとってのSelf-Reference ENGINEであり、伊藤にとってのThe Indifference Engineである。また二人はディファレンス・エンジンの解説を合作として発表している。これは原作が共著であることを意識しているのではないかと思われ、とことんディファレンス・エンジンに対する愛がうかがえる。
なんだか、二人に対して、愛おしさすら覚え始めた冬の寒い日。皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
以上。orbital「Nothing left」を聴きながら。
こういう行事は楽しんだ者が勝ちという認識になりましたので、めいっぱい楽しんでます。たぶん。ガトーショコラはそれなりに美味しかったです。ホワイトデーはクッキーを作りましょう。
さて、文芸部のブログらしく作家紹介と行きます。
Self-Reference ENGINE (ハヤカワ文庫JA) (2010/02/10) 円城 塔 商品詳細を見る |
円城塔という作家。
不条理文学だとかSFと純文学の融合だとかさまざまなことを言われている作家で、受賞暦もいくつかある実力派の作家さんです。上記の『Self-Reference ENGINE』はゼロ年代ベストSFで四位を獲得(一位は過去の記事に紹介されていました伊藤計劃の『虐殺機関』)しました。その作風は難解の一言に尽きます。おそらくですが、読んだ文章の8割が意味がわからない。むしろ、意味をわからせようとしない。専門用語と彼の創作がカオスの如く混ざり合いながら進行するお話は、彼が言っている通り、「わざと難しく」書かれています。
もともと理系の研究者であり、複雑系(カオスとかそんなの)を専攻していたというのですから、納得なのがすごいです。つまり、難しいこと考えてたから難しいこと書きだしたんだ、と。
そんな円城塔なのですが、彼の恩師(大学の研究室の教授)も著作のある人だったりします。
カオスの紡ぐ夢の中で (〈数理を愉しむ〉シリーズ) (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ) (2010/05/30) 金子 邦彦 商品詳細を見る |
金子邦彦。円城塔というペンネームは、金田邦彦の書いたこの「カオスの紡ぐ夢の中で」に入っている掌編の一つに出てきます作家”円城塔李久”から来ています。円城塔の作品を気に入ってもらえたら、副読本としてこっちも楽しめるかと思います。
とはいえ、円城塔の作品はその作風から、好き嫌いが極端に分かれます。食わず嫌いは良くありませんが、食べて食傷というのもなにか難儀なこと。まずは軽い気持ちで読むのが良いのではないでしょうか。さあ、あなたの手には「Self-Reference ENGINE」「Boy's Surface」「オブザベースボール」「後藤さんのこと」「烏有此譚」があるはずです。
以下、ちょっとしたベストSF的な話。
円城塔と伊藤計劃は共に『ディファレンス・エンジン(ウィリアム・ギブスン/ブルース・スターリング 共著 黒丸尚 訳)』の愛読者であり、それをオマージュして書いたのが、円城にとってのSelf-Reference ENGINEであり、伊藤にとってのThe Indifference Engineである。また二人はディファレンス・エンジンの解説を合作として発表している。これは原作が共著であることを意識しているのではないかと思われ、とことんディファレンス・エンジンに対する愛がうかがえる。
なんだか、二人に対して、愛おしさすら覚え始めた冬の寒い日。皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
以上。orbital「Nothing left」を聴きながら。
後期無事終了いたしましたよ。単位も終了したとの説もある。初めまして、鈴音です。
いかがですか、春期休暇満喫していらっしゃいますでしょうか。俺には春休みなんてないんだよ、という方もいらっしゃるかも。なんだかんだで忙しいですよね。
一昨日から昨日にかけては追い出しコンパ。飲み会→徹夜カラオケ→鴨川という恒例の流れはいったいいつから引き継がれているんでしょうか。4回生には随分と遊んでもらいました。飲み会とか飲み会とか、あと飲み会とかな気がするのは気のせいです。ボックスでいろいろアドバイスをもらったり、外に遊びに連れてってもらったり、ご飯おごってもらったりしました。本当にお世話になりました。泣きそうなんかじゃないんだからね! 一部の先輩方は来年度もよろしくお願いしたします。
前回の記事で夜野先輩がエリアーデを紹介していらっしゃいます。私も便乗して紹介しちゃおう。
マイトレイはエリアーデの処女作です。舞台はインドのカルカッタ。主人公は欧州出身の青年で、地元の名士である上司の元に暮らし始めます。上司の娘は聡明で美しい。しかし現地の人間です。差別意識のようなものがある。惹かれるわけがないと思っている。主人公が恋に落ちていく、同時に価値観もどんどん変わっていく、その様子は見ていて胸が熱くなります。相手の女性の名前がマイトレイです。
実はこれ、エリアーデの半分実話です。宗教学者として大成したエリアーデですが、最初は哲学を学びにインドへ留学しています。上司として書いているのは教授。娘も実在の人物で、タゴールとの交流もあり、のちに結構有名な作家になったそう。見方を変えると、数十年たっても恩師と言い切るほど厚遇されておきながら、その恩師の16の娘に懸想するというひどい話でもあります。
海外文学敬遠してる人に、一度読んで見ることをお勧めします。質の高い恋愛小説。文化や価値観の違いがどんなものかも、実体験として描かれている。
長くなりましたので、この辺でまとめましょう。春リブロの締切は2月いっぱいですよ! 春休みを楽しんで、それを小説にぶつけてください。皆様の佳作を心よりお待ちいたしております。
written by 鈴音
いかがですか、春期休暇満喫していらっしゃいますでしょうか。俺には春休みなんてないんだよ、という方もいらっしゃるかも。なんだかんだで忙しいですよね。
一昨日から昨日にかけては追い出しコンパ。飲み会→徹夜カラオケ→鴨川という恒例の流れはいったいいつから引き継がれているんでしょうか。4回生には随分と遊んでもらいました。飲み会とか飲み会とか、あと飲み会とかな気がするのは気のせいです。ボックスでいろいろアドバイスをもらったり、外に遊びに連れてってもらったり、ご飯おごってもらったりしました。本当にお世話になりました。泣きそうなんかじゃないんだからね! 一部の先輩方は来年度もよろしくお願いしたします。
前回の記事で夜野先輩がエリアーデを紹介していらっしゃいます。私も便乗して紹介しちゃおう。
マイトレイはエリアーデの処女作です。舞台はインドのカルカッタ。主人公は欧州出身の青年で、地元の名士である上司の元に暮らし始めます。上司の娘は聡明で美しい。しかし現地の人間です。差別意識のようなものがある。惹かれるわけがないと思っている。主人公が恋に落ちていく、同時に価値観もどんどん変わっていく、その様子は見ていて胸が熱くなります。相手の女性の名前がマイトレイです。
実はこれ、エリアーデの半分実話です。宗教学者として大成したエリアーデですが、最初は哲学を学びにインドへ留学しています。上司として書いているのは教授。娘も実在の人物で、タゴールとの交流もあり、のちに結構有名な作家になったそう。見方を変えると、数十年たっても恩師と言い切るほど厚遇されておきながら、その恩師の16の娘に懸想するというひどい話でもあります。
海外文学敬遠してる人に、一度読んで見ることをお勧めします。質の高い恋愛小説。文化や価値観の違いがどんなものかも、実体験として描かれている。
長くなりましたので、この辺でまとめましょう。春リブロの締切は2月いっぱいですよ! 春休みを楽しんで、それを小説にぶつけてください。皆様の佳作を心よりお待ちいたしております。
written by 鈴音
こんにちは。夜野です。
昨年に引き継いで続投の構えです。
今年からは休みも更新するようです。
順番まだかなーと思ってたら自分の番だったっていうね。
この間メールがきてはじめて気づきました。正直やってしまった。
日にちが空いているのはそういう理由があります。申し訳ないです。
さて。テストが終わって気持ち的にはすごく楽になりました。調子にのって、中島らもの「ガダラの豚」を読んでいますが、なかなか面白い本です。長いこと長いこと。さりとてさほど余裕があるわけでもなく、春LIBROの締切は近いですが……。
今回もいつも通り、個人的なチョイスで小説を紹介していこうと思います。振り返ってみれば三連続でSFの本を取り上げていたように思うので、今日は少し違ったジャンルの本を選んでみます。
今日紹介するのはミルチャ・エリアーデ「令嬢クリスティナ」です。
〈あらすじ〉
ヴカレストで貴族の娘サンダと知り合った青年画家エゴールは、彼女の招きにより屋敷に滞在する。そこには母親のモスク夫人、妹のシミナ、そして招かれたもう一人の客人ルーマニアの学者ナザリエがいた。互いに交流しあう彼らだったが、若くして死んだという黒い噂の絶えないマドモワゼル・クリスティナの影、次第に屋敷の空気は一種異様な雰囲気に包まれていき……。
ジャンルとしては幻想小説と呼ばれるものに分類されています。
描写が心理的、尚且つ主観的な視点が存在しないので、読むのはなかなか大変なのですが、そのおかげで非現実めいて唐突な描写の中に、そこから想起される恐怖心理というものを読み取ることができます。そういう点では恐怖小説とも取れる作品です。作中でいえば、影響が最も濃いのが、次女のシミナということになるでしょう。多少オカルトチックな雰囲気なので、気になった方は読んでみるのも悪く無いかと思います。
また、筆者エリアーデの宗教観による解釈の要素も魅力の一つになっています。主に作中ではミハイ・エミネスク「金星ルチャーファル」の古詩が多用されていて、作品社単行本の訳者あとがきには解説が載せてあります。あわせて読めば作品理解がより広がるでしょう。
今日はこんな感じです。
本当は凝った装丁本の話とかあったんですがあまりにも長くなりそうなのでやめました。皆さんの中にもそういったお気に入りの本が一冊や二冊あるかと思うのですが、そういうものをリストにして考えてみるのも面白いかもしれませんね。ネタ的に。
それでは。
written by夜野怪談(編集監査:二十歳前)
昨年に引き継いで続投の構えです。
今年からは休みも更新するようです。
順番まだかなーと思ってたら自分の番だったっていうね。
この間メールがきてはじめて気づきました。正直やってしまった。
日にちが空いているのはそういう理由があります。申し訳ないです。
さて。テストが終わって気持ち的にはすごく楽になりました。調子にのって、中島らもの「ガダラの豚」を読んでいますが、なかなか面白い本です。長いこと長いこと。さりとてさほど余裕があるわけでもなく、春LIBROの締切は近いですが……。
今回もいつも通り、個人的なチョイスで小説を紹介していこうと思います。振り返ってみれば三連続でSFの本を取り上げていたように思うので、今日は少し違ったジャンルの本を選んでみます。
今日紹介するのはミルチャ・エリアーデ「令嬢クリスティナ」です。
令嬢クリスティナ (1995/03) ミルチャ エリアーデ 商品詳細を見る |
〈あらすじ〉
ヴカレストで貴族の娘サンダと知り合った青年画家エゴールは、彼女の招きにより屋敷に滞在する。そこには母親のモスク夫人、妹のシミナ、そして招かれたもう一人の客人ルーマニアの学者ナザリエがいた。互いに交流しあう彼らだったが、若くして死んだという黒い噂の絶えないマドモワゼル・クリスティナの影、次第に屋敷の空気は一種異様な雰囲気に包まれていき……。
ジャンルとしては幻想小説と呼ばれるものに分類されています。
描写が心理的、尚且つ主観的な視点が存在しないので、読むのはなかなか大変なのですが、そのおかげで非現実めいて唐突な描写の中に、そこから想起される恐怖心理というものを読み取ることができます。そういう点では恐怖小説とも取れる作品です。作中でいえば、影響が最も濃いのが、次女のシミナということになるでしょう。多少オカルトチックな雰囲気なので、気になった方は読んでみるのも悪く無いかと思います。
また、筆者エリアーデの宗教観による解釈の要素も魅力の一つになっています。主に作中ではミハイ・エミネスク「金星ルチャーファル」の古詩が多用されていて、作品社単行本の訳者あとがきには解説が載せてあります。あわせて読めば作品理解がより広がるでしょう。
今日はこんな感じです。
本当は凝った装丁本の話とかあったんですがあまりにも長くなりそうなのでやめました。皆さんの中にもそういったお気に入りの本が一冊や二冊あるかと思うのですが、そういうものをリストにして考えてみるのも面白いかもしれませんね。
それでは。
written by夜野怪談(編集監査:二十歳前)